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― 平成10年夏 ―
別館リニューアルオープン ゆかたのこと お味噌のはなし 勇気を与えてくれた乗鞍
本陣平野屋別館リニューアルオープン |
女将からの便り春号でもお話しましたように、本陣平野屋別館が二ヶ月の改装工事を終え四月二十七日リニューアルオープンいたしました。短い時間の中での工事でしたが、思った以上に明るくさわやかにイメージチェンジできました。
工事を決めてから、私たちのイメージする旅館が実際に出来上がっていくかどうか、工事の方とのイメージが合致するかどうか心配し、出来上がった建物をどう活かすか迷い、果ては自分の有るべき姿にまで悩みながらも、花兆庵と別館、二つの建物がそれぞれの個性を持つことを、第一に考えました。「商売をやれる幸せがある……そう思って楽しみながら、感謝しながら考えよう……」そんな風に自分自身の気持ちを切り替えられた時、おかげさまで社員のパワーと明るさに支えられ、順調に走り出すことができました。今回のリニューアルオープンでは、おもてなしの中に、いままでと違う新しい試みをいくつか取り入れてみました。明るく楽しい別館になる様に考えたことばかりです。
始まったばかりの新生・別館は、まだまだ行き届かぬことも多いと思います。お気づきの事をお教えいただいて、皆様に可愛がっていただきますように、努力したいと思います。 |
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ゆかたのこと
本陣平野屋のゆかたが変わりました。これまでの水色のゆかたは、花兆庵がオープンする時に作ったもので、雪輪に合掌造りの家を配した図柄でした。今回別館のオープンに伴い新しくゆかたを作ることになったので、またまた、私ははりきって取り組み、平野屋としては初めて、そして念願であった男女別々のゆかたにいたしました。男性はあくまで男性らしく、女性はほんのりと優しく、そんなゆかたを作りたくて、時間をかけて相談し、やっと出来上がったのです。広幅寸法や背の高い方の寸法も作ってみました。新しいので丈が少し長めです。もしもサイズのあわない時には、どうぞお気軽にお申しつけくださいませ。そして、ご意見をお聞かせくださいましたら幸せです。
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お味噌のはなし
長い冬を乗り切る知恵だと思うのですが、飛騨びとはお味噌の食べ方と漬物の食べ方については自慢出来るものがあります。
味噌というと、なんと言っても「ほうば味噌」が有名ですね。ほうの葉の上で味噌を焼く……たったそれだけの事ですが、味噌の焦げる匂いって食欲をそそるのです。朝食でお出ししている味噌は甘めに味付けをしておりますが、普段私共が食べているものは、こうじ味噌そのものを焼きます。(飛騨の人は辛好きです。)ほう葉のないときは、電気こんろに網を置き、アルミホイルを引いて好みでバターを塗る。葱をのせた味噌をおいて、ふつふつと煮えてくるのを待ちながら、端の方から少しずつ食べていき、焦げ出す味噌との競争の様にご飯をかきこむ……アルミホイルの角っこで芋の煮っころがしや切り漬けでも焼けば、お酒のつまみにもなるといううれしい「やきみそ」です。(地元の者は「ほうば味噌」 と言わず、「やきみそ」と呼びます。)もう一つお話したい「味噌煮」は、以前にも書きましたが、味噌をおでん味噌ほどの柔らかさに水で溶き、漬けものや卵などと一緒に鍋で煮ながら食べるものです。これには小さいホウロウの一人鍋を使います。白菜のつけものの時にはぜったいみそ煮を食べたくなります。焼き味噌も味噌煮もそれぞれの食べ方が有り、 味噌に削り鰹節を入れる人・煮えたら卵を混ぜるという人・それぞれに食べ方があり、人に教えてもらってバリエーションが広がることもあります。地元の者はどちらかというと、「焼き味噌」より「味噌煮」の方をよく食べるように思います。
食欲のない時、漬けものしかおかずのない時、私たちは「味噌煮て食べる」のですが、そうやって食べる世代はどうやら私たち以上の年代の方の様です。そういえば、うちの子供も味噌を食べる習慣はありませんし、フロントの女の子も食べないそうです。どこの土地柄でもそうでしょうけれど、昔当たり前に食べていたものが消えていくのですね。食生活が豊かになったというか、飛騨びとらしくないというか……地元の者が、和食のお店に行って「ほうば味噌定食」とたのむ日が来るのでしょうか……
明日は子供に味噌煮て食べさせようっと。
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私の超えてきた道
フロント 大嶋正一
「飛騨高山」地名の通り山の町です。人々の生活する町は低い山々に囲まれ、更にその外側には遥か高い山々が立っています。
飛騨には海が無く、人々はどうしても海に憧れます。しかし、私は山が好きです。春夏秋冬を通し、スキーから登山へと山は殆ど私の趣味であり、故郷であります。
休みの日、よく近くの山に登ります。高山城址のある城山公園です。
この山は、本陣平野屋からも山頂まで徒歩で一時間くらい、天気が良ければ浴衣掛けで充分です。この山のあちこちから、高山市内はもとより、北アルプス連峰や白山、或いは御岳が望まれます。こうした山々まで車で行けば一時間ほどですが、私はよく自転車でチャレンジします。
ことに乗鞍岳では、毎年八月の終わり頃、自転車による山岳ロードレースが開催されます。国内でもっとも標高差の厳しいコースであり、長野県の乗鞍高原温泉から岐阜県の畳平までの登り道を自転車でゴールを競うもので、大変苦しいレースとして有名であります。(どなたかチャレンジしてみませんか)
五年前、私は初めて挑戦しました。途中、あまりの苦しさに何度放棄しようとしたかしれません。しかし、その度に馬鹿野郎、馬鹿野郎と自分を叱りつづけました。やっとゴールしたとき、苦しかった登り道が遥か遠くに見えました。登り切ったことよりも、自分の弱さに勝つことが出来たことにとても感動しました。
私の職場はフロントであります。お客様のチェックインからお見送りまで、平野屋のいわば顔に当たる仕事をしています。しかし、オフ対策としての宴会セールスも仕事の内です。オフの宴会のセールスといってもすべてのホテル、旅館が同じことを考えています。又、専門の宴会場、料理店なども競争相手であり、限られた市場の中、なかなか厳しい競争が繰り広げられます。
我が社でも毎年一定の時期となりますと個人別ノルマが決められ、セールスがスタートします。私はセールスなんてしたこともありませんでしたし、大嫌いでもありました。旅館にセールスなんて無いと思っていました。
最初の頃は、そんな気持ちでセールスに出かけても門前払いばかり、それでいて他のフロントがセールスにいけば注文を貰ってくる、ばからしくなって何度も何度も試合放棄を致しました。しかし、それで残った後味は自己嫌悪だけ、極めてすっきりしないものでした。二年目、三年目と時の経つ中で、このままではと、ふと乗鞍ロードレースを思い出し仕事ではない自分への挑戦だと考えることにしました。
フロントの仕事が早番の時には、仕事の後営業に出ることにしました。十軒も訪ねたなら一軒くらいは獲得できるだろうと。
そんななか、雪の降っている夜、ある会社の社長宅を訪ねました。前の日にはけんもほろろに扱われた社長でした。私を睨んでいてふと「お前みたいな奴も今時珍しい、よし、任せてみるか。」と言われました。そのとき初めて乗鞍畳平のゴールへ着いた時と同じ気持ちになりました。やっと自分に勝てました。以来セールスはそんなに難しいものでなくなりました。
いま私は人生のパートナー探しという大きな宿題を抱えています。この問題も今までの私流で成功するのかどうか自信はありません。でも他のやり方は更に自信がありません。目標達成にまっしぐら、今までどうりで頑張ってみたいと思っています。
もう一度、乗鞍の畳平に着けるといいですね。
<お客様へ>
私に勇気と感動を与えてくれた乗鞍は素晴らしい所です。あまり見かけない高山植物をはじめ、夏なのに雪が残っている所、又、お天気がよろしいと最高の景色です。
夏の暑い時期に出掛けると、とても涼しくまさに天然クーラーです。
この夏、乗鞍へぜひお出掛け下さいませ。 |
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平成10年夏 |
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