花兆庵 中庭の秘密 外はしんしんと綿のような雪が、降っています。そんな日にも、ぜひ、花兆庵を訪ねてみてください。女将さんが出迎えてくれる式台(床暖房が入っています)から、ホールに入ると中央に、中庭が目に飛び込んできます。石のオブジェに花が活けてあり、そこに、なんと外の大雪に対して、ちらほら、風花のような雪が舞っています。 「お客様のために、特別にこの演出を用意させていただきました」などと背後から声がかかります。ぼーぜんと、見上げていた人達は、この言葉で我に返ります。これは、6階からずっと吹き抜けていて、1階では3m×3m(4畳半)になっている空間は、花器にもなっている中庭です。この旅館の設計を担当させていただいた私が、今回、それを作ることになった経緯と秘密について、明かします。 私は、学生の時から、高山が好きで、何度か訪ねていました。 はじめて花兆庵の敷地を見たときから、高山の町屋によく見られるように中庭を中心とした構成がいいのではないかとイメージを持ちました。ご存知のように、うなぎの寝床のような町屋において、中庭は、プライバシー、採光、通風、雨水の処理を解決する知恵の宝庫です。でも、それ以上に魅力的なのは、表の座敷が見えたり、古い蔵に面するなど、いろんな風景が重層して見え隠れするその空間の奥行き感にあると思います。先日もお味噌を買ったお店の奥に中庭が見えたので、申し出て見せていただいたら、それは様々な蔵や、隣家の古い壁に囲まれたりして、大変魅力的な空間でした。 初めて、設計の案を見せていただいた時から中庭のアイディアはありました。若い私を、現会長が直感で気に入って頂いて設計を進めることになりました。概ね、いたるところ、それは、本当に自由にさせてもらいました。お茶室が欲しいとか、1階のお店は、お寿司屋さんがいいとか、二間続きの本格的な客室があったほうがよいのでは、などなど。こちらが、イメージを膨らまして提案するものが、どんどん実現していきました。しかし、中庭だけは、現会長と現社長とともに毎回強く抵抗されました。 「雪またじ(雪の処理のこと)は、どうするのか?昔は大雪が続くと2階から出入りしていたのに大丈夫か?ホールが狭いので1階はどうにかならないか」とか。 大きな模型をつくり、何枚もスケッチで示しながらも毎回打ち合わせをする度に、中庭は小さくなっていきました。そして、風前の灯火のように無くなってしまいそうなまさにその時、 「こういう遊びとデザインを理解できない人に、旅館は造れないわよ」と、女将さんが、なんと、啖呵を切りました。 しばし、沈黙のあと、 「うーん、わかった」 の会長の一言で中庭の案は息を吹き返しました。そして無事、あの素晴らしい生け花のある中庭が見られることになりました。 その後の話し合いで、この庭は単なる中庭というのではなく、ロビーの中央にある「花器」と位置づけました。また、雪対策と「動き」をつけるために水も組みこんだのです。そして、何かを中空に浮かせたいとの思いから友人に相談しました。あらゆる試行錯誤の末、あの三日月ともマンモスの牙ともとれる素晴らしいブロンズ製のオブジェが出来上がったのでした。出来上がってみれば、大変印象深く、花兆庵の顔となりお客様を立ち止まらせ、興味を持っていただける空間となったのでした。 次回はこの庭のオブジェを造ってくれた蝦澤さんにバトンタッチします。