ハートの食前酒
「食前酒でございます。」
夕食時、手元に置かれた器を見て、お客様から「わぁ〜」と声が上がる。お客様が見つめる食前酒の器。どうということのない白磁のリキュールグラスだが、注いだ飲み物がハート型に浮き出るように作られている。
若いカップルはもちろん、結婚記念日の旅行を楽しまれるご夫婦などにもロマンティックなひと時を演出。「ハートなんて、恥ずかしいね。」なんておっしゃるけれども、みなさんまんざらでもない様子。また女性のグループ旅行の盛り上げにも確実に一役買ってくれている。眺めたり、覗き込んだりして乾杯ということになる。そして座も大いに沸いて、夕食が一段と楽しくなる。
今年新しく購入した食前酒の器は、そんな宿の夕食にさりげない話題を提供、演出は成功したようである。
お客様のだびの一夜を預かる大事な仕事の1つとして、旅の雰囲気づくりがある。旅館での時間を気分良くすごしていただくことはもちろんだが、何か話題性のあることをお客様にご用意できたら、そこに楽しさがプラスされる。やはり「旅は、楽しくなくちゃ。」と思う。
町の中の何も変哲のない旅館だからこそ、お客様がご滞在中、少しでも楽しく過ごしていただけるように、小道具たちをあちこちにちりばめたいと思う。旅館作りは、お客様の思い出づくり。そんな思いをこめて、食前酒の器のような「小さなキラリさがし」に心が躍らされる。
岐阜新聞 素描 7月28日掲載より
◎余談◎
このハートの食前酒は個人の方にお出ししております。器のどのラインまで、お酒を注ぐと、きれいなハート型に浮き出るかが、もっか客室係の研究課題のひとつです。また、くっきり浮かび上がるように、なるべく色の濃いお酒を使うようにしています。夏にはグレープフルーツワインにしました。(味もおいしかったです。)この秋号が出る頃には、山ぶどう酒になる予定です。 |